「あ、金や〜ん」
「おっと、厄介な奴に見つかった。三十六計、逃げるに如かず…」
近づいてくる天羽に背を向けて歩き出そうとすると、その前に行く手を阻まれた。
「違う違う。今日は取材じゃないよ」
「取材じゃなくとも、お前さんは面倒なもんばかり俺の所に持ってくるだろう」
「あはは、やだなー。金やんの気のせいだよ、気のせい」
ばしばしと教師の背中を叩くな…と言いかけたが、その前に天羽の声に続きの言葉を飲み込んだ。
「ね、今、音楽準備室にちゃんいるでしょ?」
一瞬、鼓動が跳ねたが顔には出さずに、ぼんやり視線を上へ向ける。
「あー…そういや、整理を頼んだ…か?」
「頼んだか…じゃないよ、金やん。片付けても片付けても沸いてくるーってよく昼に言ってるよ?」
「好奇心旺盛な若人達が、知識の泉を訪れて、様々な物に触れていくからなぁ」
「…うっわ、自分で片付ける気ないよ、この人」
「生徒が散らかした物を、生徒が片付ける。おかしなことなかろう」
「…まいいや。音楽準備室にちゃんいるなら、これ。渡してくれる?」
そう言って天羽が手渡したのは…封筒。
「頼まれてた写真、渡すの忘れててさ」
「あのなぁ、教師に用事を頼む生徒がいるか?自分で渡しなさい」
「文化祭の打ち合わせがあるんだよ〜!」
「だったら明日でもよかろう」
「どうしても今日欲しいんだって、ね、お願い!」
押し返した物を、再び押し返されてため息をつく。
「駄目だ。ひとつ許したら、お前さん図に乗りそうだしな」
「………文化祭、金やんの1日ってタイトルで写真部で展示やるよ」
「ぐっ……卑怯な」
「やるとしたら徹底的にやるからね。スッポン天羽さんを甘く見るな〜?」
「うぐぐ……」
ここは引いた方がマシ…か。
仕方なくそれを受取り、手の甲で軽く天羽の頭を叩く。
「今日だけだぞ」
「サンキュ、金やん!」
ばたばた走る天羽に、廊下を走るなー…と、一応の声はかけつつ、踵を返して音楽準備室へ向かう。